日本人が知らないヨーロッパの穴場
まだ日本ではあまり海外旅行先として馴染みのない国「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」。国の名前を聞いたことがあっても「旧ユーゴスラビア内戦」など暗いイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
ですが終戦後20年以上が経ち、まだまだ課題は多いものの、平和を取り戻したボスニア・ヘルツェゴヴィナ。美しさと様々な魅力に溢れる国として、世界中の旅行者の注目を集めはじめています。
今回は日本人がまだ知らないヨーロッパの穴場、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの魅力に迫ります!
多彩な文化が共存する「東西の十字路」
バルカン半島に位置するボスニア・ヘルツェゴヴィナ。ヨーロッパと中東の間に位置するこの国は、歴史的、地理的に東西文化の交差点として様々な影響を受けてきました。
かつて「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つ、1つの国家」と表現された旧ユーゴスラビアのひとつであったボスニア・ヘルツェゴヴィナ。
「7つの国境」とはイタリア、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ギリシャ、アルバニア。
「6つの共和国」スロベニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ。
「5つの民族」とはセルビア人、クロアチア人、スロベニア人、モンテネグロ人、マケドニア人。
「4つの言語」とはセルビア語、クロアチア語、スロベニア語、マケドニア語
「3つの宗教」とはカトリック、正教、イスラム教。
「2つの文字」はラテン文字(アルファベット)とキリル文字(ロシア語にも使われている文字)のこと。
そして「1つの国家」とはユーゴスラビアを意味します。
このように旧ユーゴスラビアは様々な文化や宗教、人が入り混じる多種多様な国家だったのです。なかでも特にその特色が濃かったのがボスニア・ヘルツェゴヴィナ(以下「ボスニア」)。
今でもクロアチア人、セルビア人、そして「ボシュニャク人」と呼ばれるイスラム教を信仰する人々が共に暮らすこの国では、ひとつのエリアにクロアチア人のためのカトリック教会、セルビア人のための正教教会、ボシュニャク人のためのモスク(イスラム教徒の礼拝堂)が並んで建っているという、なんとも不思議な光景に出逢います。
そんなボスニアを訪れる人はみんな「ヨーロッパだけど、ヨーロッパじゃないみたい」と口を揃えます。
このようにヨーロッパに位置しながらも、どこかエキゾチックな雰囲気が漂うボスニア。ひとつの国にいながら、様々な文化を感じることができる、なんとも不思議な国なのです。
おいしいボスニア料理
なんでも「クロアチアが一番!」と、いつもは負けず嫌いの(クロアチアに住む)クロアチア人たちも「クロアチアより素晴らしい」と認めるのがボスニアの「食」。
クロアチアでもボスニアでも、食べられているもの(メニュー)はほとんど同じなのですが、クロアチア人の多くが「ボスニアの野菜やお肉はおいしい!食材がいいんだ」とベタ褒めします。
特にクロアチアでも非常に人気のある国民食「チェヴァピ」や「ブレク」は、実はボスニアが本場。ボリューム満点のおいしいお肉料理が自慢のボスニア料理ですが、なかでも「チェヴァピ」のおいしさは格別!
「おなじチェヴァピなのに、ボスニアで食べるものは10倍・・・いや、100倍おいしい!なんでだろう~。やっぱり肉が違うのかな」とクロアチア人も大絶賛します。
チェヴァピ以外にも、オスマン帝国の影響を強く受けたボスニアでは、ケバブなどトルコ料理に似たおいしいお肉料理がたくさん食べられます。クロアチア人もうらやむボスニア料理、どうぞ心行くまで堪能してください!
⇒ チェヴァピやブレクについて詳しくは「クロアチア人が愛して止まないB級グルメ3選」をご覧ください
物価が安い
ボスニアの首都・サラエボはヨーロッパの中でも特に物価が安い都市のひとつだと言われています。
ボスニアを代表する観光地であるサラエボやモスタルでは、観光客向けに少しづつ物価が上がってきてはいるようですが、それでも隣国のクロアチアや西欧諸国と比べると随分物価が安いです。
隣国のクロアチア人もボスニアへ遊びに行く時に必要な生活用品や雑貨、お菓子などをたんまりと買い込んでくる人がいるほど。
食費は旅の大きな出費のひとつでありますが、ボスニアなら(もちろん場所やレストランによりますが)ひとり500円くらいあれば、十分おなかいっぱい楽しむことができます。
温かい人との出会い
美しい自然、エキゾチックな街並みなど、たくさんの魅力が詰まったボスニアですが、多くの旅人の心を惹きつけるのが人々の温かさ。
好奇心旺盛でおしゃべり好きなボスニアの人たち。また、 お節介なほど親切で、遠い異国の地からやって来たあなたが困っている様子を見て放っておけない優しい人々です。
「道で迷っていたら、おじさんが助けてくれた。お互い言葉があまり通じなかったけれど、身振り手振りで親切に教えてくれようとして、最後には探していた場所まで連れて行ってくれた」「ふらりと立ち寄ったカフェの店員さんと話が盛り上がって仲良くなった」というような旅人のほっこりエピソードをたくさん耳にします。
また非常に「おもてなし」好きなボスニアの人々。仲良くなって「まあ、コーヒーでも飲んでいきなさい」と誘われたら、ぜひ笑顔で応えてあげて。トルココーヒーをゆっくり飲みながら、一緒におしゃべりを楽しむひとときは最高の旅の思い出となることでしょう。
大切な何かを教えてくれる
前に述べたように、かつて「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つ、1つの国家」と呼ばれた旧ユーゴスラビア。
これからわかるように民族の多様性に富んだ国家でしたが、それがゆえにユーゴスラビア紛争では民族対立が激化、悲惨な結果にもつながることになってしまいました。
6つの共和国の中でも、特に様々な民族が入り混じっていたボスニアは戦火が激しかった国。内戦で一番傷ついた国だと言われており、今でも癒えない傷跡が全土に残されています。
特に国境沿いの町は戦火が激しく、観光地として人気のあるモスタルもそのひとつ。現在は平和と人々の笑顔を取り戻しましたが、町のはずれには未だに銃弾の残る建物がたくさん残されています。
優しくて人懐っこいボスニアの人々の笑顔の裏には、筆舌に尽くし難い悲しく辛い過去が影を潜めているのです。
国とは、民族とは、平和とは、人とは・・・。本当に大切にしないといけないものとは。
美しくもどこか哀愁漂うオリエンタルなボスニアの町は、訪れる者に大切な何かを教えてくれます。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナの未来に貢献できる
「ヨーロッパでも最も貧しい国のひとつ」とも言わるボスニア。まだ癒えぬ戦争の傷跡や様々な問題を抱えながらも、より良い未来のために人々は懸命に努力を続けています。
そんなボスニアの大きな「希望」のひとつが観光業。豊かな自然や美しい街並みを生かして、隣国のクロアチアのように観光で国を豊かにしたいと奮闘しています。ボスニアを訪れることは、訪れた町の人々の経済や明るい未来に貢献できるということにもつながります。
欧米ではだんだん観光地として注目を集めるようになってきたボスニア。きっとこれからどんどんその人気は高まってゆくことでしょう。
日本人がまだ知らないヨーロッパの穴場、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ。その名が広く知れ渡る前に訪れてみませんか?
(小坂井真美)