「天空の街」としてここ数年日本でも密かに注目を集めている、美しき秘境モトブン。
まるでおとぎの世界から飛び出してきたかのように美しいモトブンをひと目見ようと、遥々クロアチアまでやってくる旅人も後を絶ちません。
ぶどう畑が広がる、なだらかな土地に突如現れる、小高い丘の上に築かれた町モトブン。イストラ半島には、このように丘の上に築かれた美しい町が点在するのですが、昔の人々はそのような町を「巨人たちが造った」と語り継いできたのだとか。
イストラ半島に伝わる民話によると、イストラにはかつてたくさんの心優しい巨人たちが住み町を築き、そこに住む人々を守っていたそうです。
ですがいつしかそんな巨人に感謝することを忘れ、人々は高慢な態度をとるように。勇敢で心優しい巨人「ヨジェ」が住むモトブンの人々も例外ではありませんでした。
ある日ヨジェは、そんな人々の態度についに耐え切れず、町人たちを怖がらせ懲らしめるために、町の広場の塔を力いっぱい揺すったのだとか。このお話に登場する塔は、実際にモトブンに存在するので、どうぞお見逃しなく!
巨人が造った町、モトブン
ところで、このようなイストラ半島に伝わる巨人伝説が基になったお話に、クロアチアの作家Vladimir Nazor(ヴラディミール・ナゾル)が執筆した“Veli Jože(ヴェリ・ヨジェ)”という物語があります。
イストラの人々なら誰でも知っている、とても有名な物語。モトブンの町を歩いていると、巨人をモチーフにした人形や絵を見かけますが、あれはヴェリ・ヨジェをモチーフにしたものです。
ヴェリ・ヨジェのお話の舞台は、イストラ半島がベネチアの支配下にあった時代。ヴェリ・ヨジェ伝説を知っているとモトブンの町歩きが、より面白いものとなります。そこで、次のページでは物語を簡単にまとめたストーリーをお伝えします。(ヴェリ・ヨジェ伝説、残念ながら日本語訳された本はまだないようです)
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ヴェリ・ヨジェ伝説
昔々、モトブンには働き者の良い巨人、ヴェリ・ヨジェが暮らしていました。町の人々は人間のために一生懸命働いてくれるヨジェのために、お礼として牛の丸焼きをいつもご馳走していました。
ところがある日、恩知らずな町人たちが「いつもいつも高価な牛の丸焼きをヨジェなんかにやるなんて。ヨジェに牛の丸焼きは、もう渡さない!」と抗議を始め、ついにはヨジェをヴェネチア行きの船に乗せ、町から追い出してしまったのです。
船に乗せられヴェネチアへ向かうヨジェ。そして、船の中でヨジェはイリヤという巨人に出逢います。ヨジェに自由とは何か、受け身の人生ではなく自分自身で道を切り開くことの大切さを教えるイリヤ。
ところが不運なことに船は酷い嵐に遭い、イリヤや他の船員共々海の底に沈んでしまうのです。奇跡的にヨジェは助かり、命からがらイストラへ帰ります。
イストラへ帰ったヨジェは、自分たち巨人に秘められた力に気づかずに、自分たちなんかよりもずっと弱くてちっぽけな存在である「主人(人間)」に仕えている同胞の巨人たちに呼びかけ団結することにしました。
そして20人もの巨人が集まり、共に懸命に働き豊かな暮らしを築き上げ、幸せな日々を過ごしていました。そんな巨人たちの豊かな暮らしを妬む人間たち。再び彼ら巨人を人間にひれ伏し仕えさせるため、町人たちはもくろみを企てます。
そして人間は、巨人たちを仲たがいさせお互いに争わせさせることにより、巨人たちを再び人間の意のままに操ろうと企てます。ところが、亡きイリヤから教えてもらった「自由の尊さ」を思い出したヨジェは・・・
・・・とかなりザックリまとめましたが、このようにイストラ半島の民話や伝承を織り交ぜながら、「自由に生きること」の尊さというメッセージが込められた物語。
この物語の主人公である巨人ヨジェは、数百年にも渡りヴェネチアやオーストリア帝国など周辺の大国に翻弄され続けてきたイストラの人々の象徴だと言われています。大国に支配される苦しみや屈辱に、我慢強く耐えてきたイストラの人々。ヨジェはそんなイストラの人々自身の姿を投影した主人公なのです。
イストラ半島の人々の暮らしや歴史的背景、民話などを読み解くことができるVladimir Nazorの“Veli Jože(ヴェリ・ヨジェ)”。クロアチア語、そしてイストラ半島について楽しみながらより深く学んでみたい方におすすめの1冊です。
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(小坂井真美)