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【クロアチア土産にも】ヨーロッパ唯一の万年筆修理工房 Peroklinika

あたたかい笑顔で迎えてくださる、店主のヴラスタさん

文房具好き必見の工房!

 

みなさん、こんにちは!
クロアチア在住ガイドのまみです。

 

突然ですが、みなさんは万年筆を愛用されていますか?

 

ペーパーレスが進んだ現代で「万年筆はおろかボールペンでさえめったにさわらない」なんて方も珍しくないかもしれません。

 

そんな今日でも、ひっそりと営業を続けている「万年筆修理工房」がザグレブに存在します。

 

その名は『Peroklinika(ペロクリニカ)』

 

 

工房が位置するのはザグレブのど真ん中、イェラチッチ総督広場に面する建物の一角。

 

ザグレブを訪れる観光客も必ず足を運ぶ広場のすぐ近くにあるのに、少し奥まった所にあるため、知らないとまず気が付かないような場所にあります。

 

 

小さな工房兼お店で来客を出迎えてくださるのは、女主人のヴラスタさん。

 

ここは1946年にオープンして以来、80年近く愛されている工房です。

 

1979年に今は亡き旦那様のボシュコさんが家業を継いで、長年地元っ子に愛される工房として営業を続けてこられました。

 

クロアチアは“シャーペン発祥の国”」とガイドブックか何かで読まれて、「クロアチアで『ペンカラのシャーペンを買いたい』と話される旅行者の方にたまにお会いしますが、そんな方が訪れるべき場所こそがここ、ペロクリニカなのです。

 

ところで、上で「クロアチアはシャーペン発祥の国」と書きましたが、これは誤解で、正確には「クロアチアは“現代的なシャーペン(機械式鉛筆)を生んだ国”」。

 

それを発明した人物の名こそが、先にちらっとでたペンカラ…つまり、スラヴォリュブ・ペンカラ(Slavoljub Penkala)。

 

工房の天井にはペンカラ氏がモデルのマスコットの看板がぶら下がっています。

 

クロアチアでは「ペンカラ=シャーペンの発明者」と紹介されることが多いのですが、世界初のシャーペンはイギリスで生まれ(1822年にジョン・アイザック・ホーキンス氏が発明)。

 

ただ、1906年にペンカラにより、実用的なノック式テクニカル鉛筆が世界ではじめて発明され、これが現在も使われているシャープペンシル(シャーペン)の原型になりました。さらに、その後ザグレブにペンカラ工場が設立され、それが大量生産され世界中に広まるように。

 

そのため、「実用的なモダンなシャーペンはクロアチアで誕生した」というのは紛れもない事実です。

 

工房で販売されている世界初ノック式技術鉛筆(シャーペン)のレプリカ。お土産にも人気です。

 

この工房では、万年筆の修理以外にもスラヴォリュブ・ペンカラが発明した世界初のノック式技術鉛筆(シャーペン)のレプリカ(上の写真)』の販売も行っており、それを求めて訪れる文房具愛好家の旅人が跡を絶えない隠れた名店なのです。

 

「世界初のノック式テクニカル鉛筆(シャープペンシル)はスラヴォリュブ・ペンカラ氏が1906年に特許を取りました。でも、これは亡き夫が新しく作り直して販売したものなんですよ。

 

「芯がなくなったら、こうやって補充するのよ」と教えてくださいました。ちなみに替芯は市販のものでOK。

 

オリジナル、発明自体はペンカラさんのものですから、夫が“発明”したものではありませんが、夫が(レプリカを考案して)新たに命を吹き込んだペンなのです。

 

各国の要人や教授、海外に留学する学生が『クロアチアからのお土産に』と携えていくこともあります。」とヴラスタさん。

 

キャップを閉じるとこんな風になります

 

お値段は30€。ヴラスタさんとの思い出に私も1本購入させていただきました。

 

文房具好きのみなさんも、クロアチアの旅の思い出にぜひ・・・!

 

ヨーロッパ唯一の万年筆修理工房

奥には工房スペースが。壁一面に修理用の部品のストックが保管されています。

 

ところで、万年筆やシャーペンの販売以外に、万年筆の修理をしているこちらの工房。

 

「昔はザグレブにも20人以上の職人がいて、万年筆を修理していたんですよ。万年筆は高価で、簡単に買い替えることができませんでしたからね。壊れたら修理するしかなかったんですよ。

 

でも、今は万年筆を使う人が激減してしまって、ザグレブはおろか、いつの間にかここがヨーロッパ唯一の万年筆修理工房になってしまいました」と、ヴラスタさん。

 

 

2014年にボシュコさんがお亡くなりになった際、それまでお店のことは旦那様に任せきりで万年筆修理について知識がなかったヴラスタさんはお店をどうするかとても悩んだそうです。

 

「若い頃、私は(夫の万年筆修理とは関係のない)まったく別の仕事をしていたんですよ。

 

彼が亡くなった時、私はすでにリタイアして年金生活に入っていました。

 

でも、彼が亡くなって『彼が長年守り続けて、愛されていた工房をみんなに忘れられてほしくない』と思いました。だから、私は夫の仕事、工房を引き継ぐことを決心した。

 

当初(万年筆修理について)知識はなかったけれど、学びながら続けてきました。そして、たまに手伝ってくれる友達もいます。そうやってなんとかこれまで切り盛りを続けてきました。

 

正直、儲けが少ない商売です。万年筆を使う人は少ないですからね。だから、かつて25人以上も職人がいたのに、みんな辞めてしまってうちだけになってしまった…。

 

さっきも話しましたが、私がこの工房を続けるのはお金のためではないんです。」

 

亡き夫への愛、”書く文化”への愛

お店の棚の最上部には、最愛の旦那様のお写真も飾られています。

 

「夫は真の“ジェントルマン(紳士)”でした。

 

いつも素敵な帽子をかぶって、優雅な所作で・・・。たくさんの人が(ただ修理に来るだけではなく)彼と話がしたくてここに通ってきてくれたんですよ。

 

彼の仕事への愛情、”書く”という文化への愛情…それが私がこの世界(今日)へ導いてくれたんです。

 

彼への愛情と想いが、私がこの仕事を続ける理由です。」と、はにかむヴラスタさんのお言葉に、とても胸が熱くなりました。

 

替えパーツがたくさん詰まった引き出し

 

万年筆の中には、今では修理用の部品がもう生産されていないものも少なくないのだとか。

 

そのため、ヴラスタさんは今までに生産工場から取り寄せてストックした部品の他にも、不要になった古い万年筆を買い集め分解したものを替えパーツとして工房の引き出しに大切に保管していらっしゃるそうです。

 

店内には貴重な古い文房具のコレクションも展示されています。

 

「この素晴らしい工房、この文化がザグレブに残るように・・・という想いで、私はこの工房を守り続けてきました。

 

現代的なシャーペンが生まれたのは、ここザグレブですしね。

 

この工房を守ることは「書く文化」を守ること…。そして、この街にそういった伝統があること、そして私がその一端を担う機会に恵まれたことを私は誇りに思っています。

 

もう私も若くないので、いつまでここに立ち続けられるかわかりませんが、できる限り続けていきたいと考えています。過ぎ去った時代への想い、亡き夫、そして彼の両親への想い、そしてザグレブの街への想い・・・それがこの工房を続ける私の原動力なのです。」

 

と、誇らしげに語ってくださりました。

 

自慢のコレクションを丁寧に説明してくださいました

 

しかし、後継者の話題になると「この仕事はあまりお金にはならないですからね・・・(この工房を子供たちが継ぐのは難しいでしょうね)」と、どこか寂しそうに一瞬目を伏せられました。

 

「でも、私には夢があるの!」とパッとまた目を輝かせるヴラスタさん。

 

 

「私が実現したいこと。それは「書く博物館」。私の数百点に及ぶ万年筆・文房具の全コレクションをザグレブ市へ寄贈する予定をしています。その後のことは、どうなるか分かりませんが。

 

私はこの工房が大好きなんです。

 

先人たち、夫から受け継いだ感情やエネルギーが、自分の中に生きている気がして、姿が見えなくても、ここに来るといつも彼らとつながっているような気がするんですよ」と、優しい笑顔で語ってくださいました。

 

 

お洒落でとてもあたたかいお人柄のヴラスタさん。

 

どうかいつまでもお元気で、長くこの工房を続けてくださいますように・・・!

 

みなさんもザグレブへお越しの際はぜひお立ち寄りください。

 

きっと、とっておきの旅の思い出になることでしょう。

【お店DATA】

 

■Peroklinika(ペロクリニカ)住所:Trg bana Josipa Jelačića 15,  Zagreb

営業時間:

月曜日~金曜日 10:00~16:00頃

土曜日 10:00~14:00頃

日曜日・祝日 休み

(※その他、不定期で休みアリ。またヴラスタさんのご事情にあり、開店が10:00以降になることもあります)

本記事の執筆者、ザグレブ在住日本人ガイドが楽しいザグレブ散策のお手伝いをします!

 

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